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大阪家庭裁判所 昭和36年(家)2606号 審判 1964年4月27日

申立人 田村良男(仮名) 外一名

主文

申立人両名の氏「田村」を「山田」に変更する。

理由

本件申立の要旨は、申立人良男は昭和六年山田松子と入夫婚姻し、以後「山田」の氏で昭和一〇年まで○○○○医療電機工作所経営、昭和一〇年より昭和一五年まで○○○○工業株式会社代表取締役、昭和一〇年より昭和二〇年まで○○金属株式会社代表取締役、昭和六年より昭和二八年まで株式会社京都○○ホテル代表取締役、昭和二八年より昭和三三年まで○○工業株式会社代表取締役、昭和二九年四月より同年一〇月まで○○有機肥料株式会社代表取締役、昭和二九年一〇月より昭和三三年四月まで○○農薬株式会社代表取締役、昭和三五年一二月より現在に至るまで○○物産株式会社代表取締役に各就任し、広範囲に事業面を始めとして公私にわたって申立人は「山田良男」で知悉されてきたところ、昭和三六年四月二三日山田松子と協議離婚したため、申立人は婚姻前の「田村」に復氏した。しかし上記事情にあるため、申立人はどうしても「山田」の氏を称さなければ公私にわたって特に事業面において不便、不利益を生ずるので、「田村」の氏を「山田」の氏に改めることを許可してほしい、というものである。

筆頭者山田良男、同田村良男の各戸籍謄本、○○金属株式会社、株式会社京都○○ホテルの各株券、○○農薬株式会社、○○工業株式会社の各登記簿謄本、株式会社○○銀行大阪支店の○○工業株式会社にかかる証明書の各記載、および申立人良男(第一、二、三、四回)、同花子、田村竹子、田村正男の各審問結果を綜合すると、(1)申立人良男は山田松子と昭和六年一月三一日入夫婚姻し、昭和三六年四月二二日協議離婚したこと、(2)申立人良男はその間勿論「山田」の氏をもって、昭和六年より昭和一〇年まで○○○○医療電機工作所経営、昭和一〇年より昭和一五年まで○○○○工業株式会社代表取締役、昭和一〇年より昭和二〇年まで○○金属株式会社代表取締役、昭和五年より昭和二八年まで株式会社京都○○ホテル代表取締役、昭和二八年より昭和三三年まで○○工業株式会社代表取締役、昭和二九年四月より同年一〇月まで○○有機肥料株式会社代表取締役、昭和二九年一〇月より昭和三三年四月まで○○農薬株式会社代表取締役、昭和三五年一二月より昭和三七年七月まで○○物産株式会社代表取締役、昭和二九年一一月より現在に至るまで○○工業株式会社代表取締役に各就任し、上記離婚前は勿論離婚後も業界では「山田良男」で知悉されていること、(3)山田松子は昭和六年長女幸子を出産後より病弱となり高血圧症、腎臓病、心臓病、肝臓病等に罹患し、そのため殆んど働けない状態となり、申立人良男との夫婦生活も昭和二〇年頃よりもてなくなり、そのため、申立人良男は松子と別居し、昭和二二年頃より現在の妻申立人花子と同棲するようになり、双方間に昭和二九年一一月一五日竹子が、昭和三四年三月九日正男がそれぞれ出生し、山田松子と円満に協議離婚成立後、申立人両名は昭和三七年六月八日婚姻し、上記子供二人とともに公私にわたって「山田」の氏を名乗り現在に至ること、がそれぞれ認められる。そもそも離婚による復氏を定めた民法七六七条の規定とやむを得ない事由ある場合に家庭裁判所の許可によって氏を変更し得ることを定めた戸籍法第一〇七条第一項の規定との関係については、これは別個のものと解してよく、たとえ離婚により復氏したものを長年月の婚姻期間中の呼称を理由に婚姻中の呼称に変更を許したとしても、それは一たん離婚により復氏させた上、婚姻中の氏そのものとは違うそれと類似した呼称に変更することであるから、許容し得ると解すべきであり、ただその者にのみ離婚原因ある場合には自ら招いて復氏の止むなきに至ったものであるから、かかる者にまでたとえ長年月の婚姻期間中の呼称であってもそれを戸籍法第一〇七条にいわゆる「やむを得ない事由」にあてはめることは許すべきでないと解すべきところ、申立人良男と山田松子との離婚については申立人良男にも特に申立人花子との関係等離婚原因を認められないわけではないけれども、山田松子は昭和六年頃という婚姻初期より病身にあって、以来申立人良男は同人のため生活費中大きな割合を占める医療費を負担し続け、同人の看病をつくし、ついに夫婦の性生活ももてなくなってある意味において人間的にやむを得ない事情が生じてから、申立人花子と関係をもつようになりさらに一〇数年経過してから山田松子と円満に協議離婚しているのであって、そこには同女の申立人良男における申立人花子との関係を宥恕する意志を推測することができるから、かかる場合は上記復氏した者にのみ離婚原因ある場合の障碍事由は認めるべきでないと解するのが相当と思料される。よって、上記認定の申立人両名、双方間の子供二人の事情よりして申立人両名の氏「田村」を「山田」の氏に変更することを許可することとし、戸籍法第一〇七条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡瀬勲)

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